<執筆者:弁護士 生田秀>
本コラムでは、養育費の標準的算定方式について解説します。
養育費の金額は、家庭裁判所の養育費算定表に基づいて計算することが多く、家庭裁判所の実務では算定表を用いて養育費の金額について協議をします。算定表を用いて算出された金額が、実際に子育てをするのにかかる経費と比較して少ないため、日弁連は新算定表を提案していますが、家庭裁判所の実務の中で受け入れられているとは言い難いのが現状です。
養育費算定表は、標準的算定式をもとに作成されています。算定表は、「4~6万円の幅のうち下限に近いから4万円ですかね」といった目安が示されるだけですが、養育費の金額について詰めの協議をしていくと、標準的算定方式を使用して千円単位の話し合いになることもあります。
今回は、この標準的算定方式の考え方を説明します。
(1)標準的算定方式の考え方
親子間の扶養義務は「生活保持義務」であり、扶養義務者である親は、子に対して、自分の生活の保持と同程度の生活を保持する義務があります。
標準的算定方式では、親の収入のうち、仮に子が義務者と同居していた場合にその子のために費やされていた金額はどの程度かを計算し、その金額(子の生活費)を、権利者・義務者の間で収入の割合で按分して、義務者が負担すべき子の生活費=養育費を算出する、という考え方をとっています。
実際の算定は、以下の手順で行います。
(2)基礎収入の計算
まず、親の基礎収入を計算します。基礎収入とは、総収入から、公租公課、職業費(その仕事をするために必要な経費と考えてください)、特別経費(住居費など家計の中の固定費のようなものと考えてください)を控除した、養育費の捻出の基礎となる金額です。もちろん、生活費は各世帯によって異なり、それを個別に計算することはできませんので、総収入から「統計資料に基づいて算出された標準的な割合」を控除して、基礎収入の金額を決めています。
具体的には、総収入(給与所得者であれば源泉徴収票の支払金額、事業所得者についてはこちらのコラム参照)に以下の表の割合をかけて算出します。
(3)子の生活費指数
成人が必要とする生活費の指数を100とした場合の子の生活費の指数です。
0~14歳の子は55、15歳~19歳の子は90として計算します。
(4)子の生活費の計算
養育費の支払義務者が仮に子と同居していた場合、子の生活のために使用されるべき金額は、以下のようになるはずです。
子の生活費=義務者の基礎収入×(子の生活費指数÷(義務者の生活費指数+子の生活費指数))
例えば、8歳の子が一人いる場合(子1人のケース)は、以下の計算になります。
子の生活費=義務者の基礎収入×(55÷(100+55))
10歳の子と16歳の子がいた場合(子2人のケース)では、
子の生活費=義務者の基礎収入×((55+90)÷(100+55+90))
6歳の子と3歳の双子がいた場合(子3人のケース)では、
子の生活費=義務者の基礎収入×((55+55+55)÷(100+55+55+55))
という計算になります。
(5)義務者の負担額
このように計算された子の生活費を、父母がそれぞれの基礎収入に応じて分担すると考えますので、義務者の負担額は以下のように計算されます。
子の生活費×(義務者の基礎収入÷(権利者の基礎収入+義務者の基礎収入))
上記の計算式で算定された金額は年額ですので、これを12で割って、月額の養育費を計算します。