<執筆者:弁護士 生田秀>
今回のコラムでは、養育費請求で財産開示手続を申し立てるにあたっての実践例を紹介していきます。
財産開示手続とは、簡単に言うと、判決や調停調書などによって決められた金銭の支払いを実行せず、強制執行の対象となる財産も見つからない場合に、債務者を裁判所に呼び出して、「あなたの財産はどこにありますか?」と質問することができる手続です。
正当な理由なく裁判所からの呼び出しに応じなかったり、虚偽の陳述をした場合には、30万円以下(法改正後は50万円以下)の過料が科せられます。
もっとも、直接お金を支払わせる手続ではなく、単に「質問をすることができる」というだけの手続ですので、あまり利用されていないのが実情でした。たとえば、債務者が裁判所に出頭して「私の財産としてはA銀行B支店の口座に60万円の残高があります。」と正直に陳述したとしても、その日のうちに預金を下ろされてしまえば、債権者側に債権執行をかける余裕はありません。このような仕組みであることから、「実効性に薄い手続」という評価を受けています。
平成29年度の司法統計によると、全国の地方裁判所が新規に受け付けた財産開示事件の件数は年間で686件しかありませんでした。同時期の債権執行の件数が11万9289件、不動産執行が4726件であること比較すると、圧倒的に少ないといえます。全国の地方裁判所の数は、本庁・支部合計で253箇所ですから、裁判所の取扱いは、年に2、3件ということになります。弁護士さんの中でも、財産開示の経験が無い方が多いのではないかと思われます。
弊所では、養育費請求に関して、これまで3件の財産開示手続の申立てをしており、現在も申立準備中の案件が複数あります(2019年8月時点)。
過去の3件は、過去に強制執行をして失敗していたり、執行対象となる財産が見つからず、残された手段が財産開示しかないと考えて申し立てたものですが、実は3件とも最終的に養育費の支払い開始の成功につながっています。
そのため、財産開示手続に対する私の印象は「意外と使える!」です。
以下、これらの3件がどのようなプロセスを経て回収成功に至っているかをご紹介します。
1 Aさんの事例
ご自身で過去に預金債権の執行をしたこともあるAさんですが、債権執行は空振りでした。住所調査の結果、相手の方が自宅を所有していることも判明したのですが、比較的新しい住宅ローンの抵当権が付いており、不動産執行をしても無剰余取消(競売ができても、売却金は住宅ローンの弁済等に優先的に充当されて債権者の手元に残らない)になる可能性が高く、手詰まりな状況でした。
そこで、財産開示手続の申立てを行ったところ、相手方に代理人弁護士が就任し、弁護士間の和解交渉の結果、未払養育費の一部ではありますが、一括で支払いをしてもらうことができました。
2 Bさんの事例
Bさんのケースでは、相手方が転職をしてしまって現在の勤務先が分からない状況でした。利用している銀行名・支店名が判明していたので、まずは預金債権の執行をしましたが、未払養育費の一部しか回収できませんでした。
そこで、財産開示手続の申立てを行い、財産開示の実施決定がされました。
財産開示手続の実施決定がされると、裁判所から相手方に文書が送達されます。これは、特別送達という、郵便局の職員が行う特別な書留郵便のような形式で行われます。相手方が裁判所からの書面を受取らず、郵便局の不在票により窓口で受取りもしない場合、休日に再度送達してもらったり、付郵便送達という、相手方が実際には受け取っていないのだけれど、受け取ったことにしてしまう手続により、送達を完了させなければなりません。
この方は、都内のあるアパートにお住まいでしたので、現地を調査して、実際に居住しているかを確認しにいきました。「確証は無いけれどもおそらく住んでいるようです。なお、ご本人がお住まいかどうか管理会社に電話で確認しましたが、個人情報保護を理由に回答してもらえませんでした。」というような報告書を裁判所に提出すると、裁判所から、「調査嘱託を検討しては?」という連絡を受けました。
調査嘱託とは、裁判所が行う手続で、裁判所が、必要な調査を官庁若しくは公署、外国の官庁若しくは公署又は学校、商工会議所、取引所その他の団体に嘱託することができるとされています。そこで、裁判所が管理会社に対して「この人がこのアパートに住んでいるかどうかを調査してください」という内容の調査を嘱託するよう申立てをして、そのとおり実施されました。
調査嘱託に対する管理会社の回答書を参照すると、相手方である債務者本人がアパートに居住している事実だけではなく、現在の勤務先まで記載されていました。
偶然ではありますが、勤務先が判明したので、財産開示手続の申立てを取下げで、給与債権の差押えに移行し、回収に成功しました。
3 Cさんのケース
Cさんの事案は、債務者である相手方ご本人が出頭して財産開示期日が実施された事案です。
財産開示の呼び出しを受けた者は、財産目録を事前に提出する必要があります(民事執行規則183条)。債権者側では、この財産目録の内容も参考に、当日、債務者に対して行う質問の内容を考えます。
手続は非公開で行われます。当日は、債務者は裁判官の前で宣誓をする必要があります(民事執行規則185条)。手続の内容は、書記官が調書に残します。
このケースでは、相手方ご本人も、養育費の支払いをしていないことは気になってはいたようでしたが、未払金を一括で支払うことは難しいということでした。一方、提出された財産目録の内容に虚偽は無さそうでしたし、当日も真摯に質問に回答していたので、その場で話し合いを行い、和解をすることができました。
以上の通り、これまで手がけた事例では、「やってみると意外と意味があった」という結果になっています。
これに加えて、勤務先情報の取得等の第三者からの情報取得手続が利用できるようになることから、財産開示手続の実効性は飛躍的に上がっていくと考えております。
勤務先情報の第三者からの情報取得手続は、財産開示手続期日から3年以内に申立てをすることができるので、「判決」「調停調書」「審判書」などの債務名義をお持ちの方は、今年度から財産開示手続の申立てをするメリットがありますので、ぜひこのサイトを通じてご相談ください。
また、「公正証書」で養育費の取り決めをしている方は、財産開示手続の利用ができるようになるのが2020年4月以降になります。ご相談をいただいた上で、受任可能な事案について、年明け以降、順次対応をしていく予定です。