いままで諦めていたケースでも、養育費の強制執行がしやすくなるかもしれない。
改正民事執行法がついに国会で成立しました。
(改正のポイントは、前記事のコラムvol.1へ「前記事を読む」)
今回の改正では、「第三者からの情報取得手続」という手続が新設されて、養育費を支払う義務がある人の勤務先に関する情報を、裁判所が市町村や年金事務所に照会する手続が新設されます。
では、この「第三者からの情報取得手続」は、どのように利用すればよいのでしょう。生田秀弁護士が法案から分かる範囲で解説します。
1 勤務先を照会するためには、財産開示手続の申立てが必要
第三者からの情報取得手続を利用する前に、まず「財産開示手続」という手続を、債務者の住所地を管轄する地方裁判所に申し立てる必要があります。
財産開示手続とは、簡単に言うと、債務者を裁判所に呼び出して、「あなたはどこの会社に勤務していますか?」「どこの銀行に口座を持っていますか?」「株式や不動産は保有していますか?」といった質問をすることができるという手続です。
債務者が期日に出頭しなかったり、虚偽の陳述をした場合は、罰金の罰則が科せられます(現行法では30万円以下、改正法では50万円以下の罰金)。
財産開示手続の申立てをするためには、債権者が既に知っている債務者の財産について強制執行をしたとしても、完全な弁済を得ることができないことの疎明が必要です。
勤務先の紹介は、財産開示手続が実施されてから3年以内に、別途「第三者からの情報取得手続」を申し立てることになります。
第三者からの情報取得手続の施行は来年4月となる見込みですが、財産開示期日の申立て自体は、現時点で申立てをすることも可能です。
(財産開示手続の詳細は、こちらのコラムへ「【民事執行法 改正/財産開示手続1−1】施行に向けて今できることは?」)
2 相手がさらに転職してしまった場合は?
第三者からの情報取得手続を利用してようやく勤務先情報を取得したのに、債務者が再び転職をしてしまった場合にはどうすればよいのでしょうか。
財産開示手続は、原則として、債務者が1度裁判所に出頭して陳述をしてから3年間は再度の申立てができません。しかし、その財産開示期日の後で債務者と使用者との雇用関係が終了したときは、このような期間制限はありません。そのため、改めて財産開示手続の申立てをして、第三者からの情報取得手続を利用することができます。
3 所有不動産の照会
第三者からの情報取得手続では、債務者の名義になっている土地や建物の情報を法務局に照会することもできます。
4 預貯金口座の照会
これまでは、債務者が保有している銀行の支店名まで債権者側で特定しなければ、預金の差押えはできませんでした。しかし、「第三者からの情報取得手続」では、各銀行の本店に照会をして、債務者がどの支店に口座を保有しているか照会することができます。
もっとも、どこの銀行に照会するかは、債権者側で特定する必要があります。また、銀行への手数料(1つの銀行あたり3,000~5,000円と言われています)は債権者側で支払う必要があります。なお、銀行に支払った手数料は、執行費用として債務者に請求することができます。
預貯金口座の情報を取得する手続きは、勤務先や不動産の照会とは異なり、財産開示期日を開かなくても、実施することができます。ですので、相手方に事前に知られることなく、手続を進めることが可能です。
5 株式や投資信託の照会
債務者が証券を保有していそうだけれど債務者が利用している証券会社が不明な場合は、第三者からの情報取得手続を利用して証券保管振替機構(ほふり)に照会をすることで、債務者がどの証券会社で株式を保有しているかという情報が分かります。
これによって、株式や投資信託(投資信託については投資信託振替制度に乗っているもののみ)を差し押さえることができます。
6 注意点
生命保険の解約返戻金は、今回の改正では第三者からの情報取得手続の対象外となっています。
財産開示手続では、公示送達の手続を利用することはできません。ですので、相手方が住民票上の住所地に居住していないなど全くの行方不明の場合には、残念ながらこの手続を利用することができません。
7 今後の情報のアップデート
手続の詳細については、最高裁判所が定める民事執行規則により今後明らかになる見込みです。今後も、新たな情報が分かり次第、本サイトでお伝えしていきます。
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