現在、法務省の法制審議会家族法制部会の中で、離婚に関する法制度の見直しが検討されています。
協議離婚をする際、養育費の取り決めを公正証書ではなく、「離婚協議書」「覚書」などの私文書で取り決めて互いに署名押印をすることも多くあります。
私文書で取り決めがされている場合は、不払いが発生した場合、すぐに給与の差押え等の強制執行をすることはできず、改めて養育費請求調停か民事訴訟を提起する必要があります。
現在法政審議会で検討されている内容として、養育費債権に一般先取特権を付与するという案があります。
「一般先取特権」というのは、専門家以外には聞き覚えがない言葉だと思いますが、一定の債権について、債務者の総財産から優先的に弁済を受ける権利のことです。現行法では、①共益の費用、②雇用関係、③葬式の費用、④日用品の供給について、一般先取特権が認められています。
養育費債権に一般先取特権が付与されると、どのようなメリットがあるのでしょう。
私文書であっても、調停や訴訟をせずに、いきなり民事執行を開始できる可能性が生まれます。
一般先取特権が付与された債権については、強制執行で必要な債務名義や執行文が無くても、「担保権の存在を証する文書」の提出により、「担保権の実行」として、競売や債権の差押えをすることができます。正確には、強制執行ではなく、担保執行と言います。
つまり、「離婚協議書」や「覚書」などの私文書が「担保権の存在を証する文書」として認められた場合には、財産開示手続や第三者からの情報取得手続の申立てをしたり、動産や不動産の競売の申立てをしたり、預金や給与の差押えをすることができる、ということになります。
もっとも、それほど強力な手段を執るためには、私文書の内容も、ある程度きちんとした内容にしておく必要があることでしょう。「担保権の存在を証する文書」として認めてもらうためには、支払義務を負う人の署名捺印は必要でしょうし、金額や始期・終期も明確にしておいた方がよいでしょう。
具体的な制度設計は引き続き検討することとされており、このような法改正がされるかどうかも現時点では分かりませんが、実現が注目されます。
参考:法制審議会-家族法制部会
https://www.moj.go.jp/shingi1/housei02_003007