<執筆者:弁護士 生田秀>
本コラムでは、教育無償化と養育費請求について解説します。
公立高校の授業料は2010年度から無償化されています。私立高校の授業料も、世帯の収入に応じて、就学支援金によって授業料が低減されています。2020年度からは、年収590万円以下の世帯を対象に就学支援金の上限額を引き上げ、私立高校も実質無償化される、とされています。
幼児教育については、2019年10月から、0~2歳児は住民税非課税世帯、3~5歳児は全世帯が、無償化対象になるとされています。
養育費算定表で計算される養育費には、一定額の教育費用も含まれていますが、高校授業料や保育料の無償化は、養育費の金額に影響を与えるのでしょうか?
高校授業料無償化については、判例があります。
最高裁判所平成23年3月17日第二小法廷判決(家月63巻7号114頁)は、婚姻費用についての事案ですが、子ども手当が支払われていることや、高校授業料が無償化されたのだから婚姻費用が減額されるべきだという義務者側の主張を、以下の理由で退けた福岡高等裁判所那覇支部平成22年9月29日決定を是認しています。
①子ども手当制度は,次代を担う子どもの育ちを社会全体で応援するとの観点から実施されるものであるから,夫婦間の協力,扶助義務に基礎を置く婚姻費用の分担の範囲に直ちに影響を与えるものではない。
②公立高等学校の授業料はそれほど高額ではなく,長女の教育費ひいては相手方の生活費全体に占める割合もさほど高くはないものと推察されるから,授業料の無償化は、抗告人が負担すべき婚姻費用の額を減額させるほどの影響を及ぼすものではない。
③また,これらの公的扶助等は私的扶助を補助する性質のものであるから,この観点からも婚姻費用の額を定めるにあたって考慮すべきものではない。
「これらの公的扶助は私的扶助を補助する性質のものであるから」という判断の背景には、無償化法が「子の監護者の経済的負担の軽減と教育の機会均等に対する寄与を目的とすることからすると、経済的負担が軽減された分については、教育の一層の充実を期待するべきであり、原則として、同法の施行を婚姻費用分担額の算定に当たって考慮する必要はない」(松本哲泓「婚姻費用分担事件の審理ー手続と裁判例の検討」(家月62巻11号76頁))という考え方があると推測されます。
高等学校等就学支援金の支給に関する法律は「高等学校等の生徒等がその授業料に充てるために高等学校等就学支援金の支給を受けることができることとすることにより、高等学校等における教育に係る経済的負担の軽減を図り、もって教育の機会均等に寄与することを目的とする。」ことを目的としています(同法1条)。
幼児教育無償化の根拠となる「子ども・子育て支援法」も、「子ども・子育て支援給付その他の子ども及び子どもを養育している者に必要な支援を行い、もって一人一人の子どもが健やかに成長することができる社会の実現に寄与することを目的」としています(同法1条)。
このように、いずれの法律も、監護者の経済的負担の軽減等の必要な支援により、子どもの健全な成長や教育の機会均等の実現を目的としているところ、その結果として養育費が減額されては政策の目的が実現されません。
幼児教育無償化によって監護者の経済的負担が軽減した分は、子どもの健全育成のために使われるべきでしょう。
例えば、子を監護しているお母さん(お父さん)が、少しだけ仕事の時間を減らして子どもと関わる時間を増やせるかもしれない。学用品を購入できるかもしれない。習い事やお出かけで、知的な刺激を与えられるかもしれない。
以上の通り、幼児教育無償化も、高校授業料無償化と同様に、養育費の金額に影響を与えるものでは無いと考えられます。